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不動産の相続と売却に向けての注意点

2012.04.10

司法書士という職業柄、相続による不動産登記の名義変更はもとより、最近では、その後の売却手続きについてもお手伝いをする機会が多くなってきました。

特に最近の傾向としては、自宅を相続した妻が自宅を売却して、一人暮らしに適したマンションを購入したり、有料老人ホームに入所したりするケースが増えてきたように感じます。

この相続から新生活までの間には、様々な手続きとそれに伴うトラブルが付き物です。そこで、相続から売却までの流れと、各手続きにおける注意点をご紹介します。

 

 

まず、相続手続きの方法は、大きく分けて3つあります。

 

法定相続

遺言(自筆証書、公正証書等)

遺産分割協議

 

以上のうち、法定相続や遺言書がある場合は、法定相続分や遺言の内容に従い事務的な手続きをすることで、比較的簡易な不動産の名義変更が可能ですが、実際には遺産分割協議によるケースが多く、次の注意点や各家庭の取り決め等を十分に考慮して、相続人全員の協力により遺産分割協議を取りまとめていきます。

 

・出生まで遡った除籍謄本により、法律上の相続人を確定しているか

・相続財産すべてを把握できているか

・相続債務や保証債務等はないか

・相続人全員の意見を取りまとめるリーダー適任者はいるか

・遺言書がない場合でも、亡くなられた方の言葉や思いに沿った協議が調いそうか

・相続人全員は成人しており、意思表示がハッキリできるか

・電話連絡や郵便による書類のやり取りがスムーズにできるか

・家庭裁判所で相続放棄の手続きをしている相続人はいないか

・相続人以外の親族または法律のプロ等の関与によって影響や障害が生じないか

・遺産分割協議の内容とは別に、特定の相続人間で現金を渡す等の約束はないか

・相続税の申告の要否につき適切な判断ができるか

・相続税の申告が必要な場合、各種控除を検討した上で協議内容を決定しているか

・相続に関する税金や諸費用は誰が負担するか

 

これらの注意点につき、例えば、相続人全員が同居し、妻が家計をすべて管理し、財産は自宅マンションと数百万円の預貯金のみで、住宅ローンは夫の死亡保険金で完済となり、その他の負債は一切なく、夫の生前からの希望により、妻が財産すべてを相続することに相続人全員が同意しているようなケースでは、ほとんど気にすることはないでしょう。

 

しかし、相続人が別世帯となり遠方で暮らしている場合、病気で入院している場合、会話が難しい場合、法定相続分相当額を望む相続人がいる場合等、思ったとおりの協議が速やかに調うケースばかりとは限りません。

 

このような注意点について、少しでも不安を感じるようでしたら、今後の準備として、生前に「遺言」を書くことが有効です。自筆証書でも十分に効力は発揮できます。いつでも書けるからとなかなか手をつけない方こそ、少なからず不安を抱えているはずです。

 

例えば、大半は妻に相続させたいが、少しは特定の子供にと考えている場合、まず「妻が財産すべてを相続する」主旨の遺言を作成することによって、当面の不安が解消されることもあります。

遺言は何度でも書き換えができますので、その時々の状況に応じて追加や変更が可能です。公正証書遺言であっても、自筆遺言によって追加や変更をすることができます。

また、相続による各種名義変更の手続きの際も、遺言書がある場合は、明治・大正時代まで遡った除籍謄本等を省略することができ、非常に迅速な手続きが可能です。

 

遺言の話でかなり脱線してしまいましたが、次に、相続手続き後の不動産仲介会社との売却に関する媒介契約(買主を探してもらう契約)の際に、注意または調査すべき点をご紹介します。

 

・売却不動産の接道に、公道以外の私道の権利は存在しないか

・売却不動産につき、登記簿のない建物や不存在建物の登記簿はないか

・再建築条件や土地の境界等が売却に適している状況であるか

・名義人が複数人の場合、売却予定額や分配方法は決まっているか

・他人の権利(抵当権・賃借権)がある場合、代金決済の時までに抹消できるか

・建物の引渡しが速やかにできるか

・不動産を購入または新築した際の契約書、領収書、権利証はあるか

・売却に伴う譲渡所得税の予測金額や住宅減税につき検討しているか

 

これらの注意点のうち、そのほとんどが相続の手続きと並行して対策をすることで、不安なく媒介契約や売買契約に臨むことができます。なお、昔ながらの一戸建ての場合には、問題解決に相当の時間と費用を要するケースもありますので、事前に不動産のプロに相談し、売却までの見通しをつけてもらうと安心でしょう。

そして、不動産購入希望者からの買い付けが入った後、売買金額の折り合いがついたところで、売買契約書を取り交わし売買が成立します。 売主と買主は、売買成立から1ヶ月乃至2ヶ月程度の猶予期間中に、資金の準備や引越しの手配等の準備をととのえます。

最終の売買代金の決済当日は、銀行等の金融機関に、売主、買主、不動産仲介担当者、司法書士が集まり、書類や鍵の受渡しと、売買代金その他諸経費の精算が行われ、売却完了となります。

 

不動産の相続や売却は、一生に一度か二度という方がほとんどでしょう。慣れないことで不安を抱え、無用の気苦労をするより、「餅は餅屋」という言葉のとおり、「相続・不動産・登記」の各プロに是非、お気軽にご相談ください。

 

<今回のレポート担当>

酒井司法書士事務所(福岡市中央区)

司法書士 酒井 謙次 先生

趣味は魚釣り。課題は、2人の娘から嫌われない父でいることです。

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筆者紹介

酒井 謙次
酒井司法書士事務所 所長

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 本業である登記手続きについては勿論のこと、関連知識を必要とする場面においても、弁護士、税理士、土地家屋調査士等の専門家と協力し、迅速かつ丁寧・正確をモットーに、安心してお任せいただけるよう心がけ、不動産の登記(売買、相続、担保設定)および会社法人登記を柱として、専門性の高い業務に努めるとともに、 高齢化社会によって今後増加する成年後見、遺言作成等の業務についても幅広く取り組んでいます。

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